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「動く薬局」被災地で活躍 命つなぐモバイルファーマシー 能登半島地震で支援

PR | 神奈川新聞 | 2024年3月11日(月) 15:00

能登半島地震の被災地で活動した派遣チームのメンバー=石川県能登町

 元日に発生した能登半島地震の被災地に、薬局機能を備えた災害対策医薬品供給車両「モバイルファーマシー」が全国各地から駆けつけ、その活躍に注目が集まっている。横浜薬科大学(横浜市戸塚区)が横浜市薬剤師会と横浜市の3者で共同運用する車両も今回初めて派遣され、石川県能登町で約1カ月にわたって活動した。東日本大震災を機に導入が進む「動く薬局」。現地で果たした役割を報告するとともに、横浜薬科大学の都築明寿香学長、市薬剤師会の坂本悟会長の話を紹介する。

■必要な薬を被災地へ

200種類の薬を備えたモバイルファーマシーの車内

 「本当に助かります」。被災者から感謝の言葉がかかる。石川県能登町にある宇出津(うしつ)総合病院前の薬局駐車場。市薬剤師会の会員らが中心の派遣チームはここにモバイルファーマシーを活動拠点として据え、延べ28人が第1陣の1月11日から第7陣の2月5日まで支援に力を注いだ。

 1月10日に横浜をたち、翌11日に現地入りした。発生から1週間余りが経過していたが、道路被害は依然として激しく、金沢市から能登町までの約120キロの道のりに11時間を要した。亀裂や段差で通行できない箇所もあり、迂回(うかい)や徐行を余儀なくされた。

 2019年に横浜薬科大が導入した車両は無菌状態で調剤が可能な作業台のほか、寝泊まりに対応できるようベッドや発電機、トイレも完備している。今回の活動に向けては約200種類の薬を積んだ。全ては薬を必要とする人のためだ。

■「災害処方箋」に対応

関係者らと情報を共有する派遣チームのメンバーら

 大規模災害時は医師や看護師ら医療関係者が被災地へ集結するが、医師の処方箋を要する薬の供給不足が懸念される。実際に11年の東日本大震災では、津波の影響で薬局の調剤機能が停止し、生活習慣病を抱える人らが困窮した。

 こうした課題を受け、宮城県など各地で配備されたのがモバイルファーマシーだ。災害救助法に基づき災害派遣医療チーム(DMAT)の医師らが出す「災害処方箋」に従って調剤や薬の供給ができ、大規模災害時でも被災地の中で活動し続けられる利点を持つ。

 今回の派遣チームはメンバー4人が数日ごとに交代しながら、24時間体制で車両に滞在。DMATとのミーティングには連日参加し情報共有を重ねて、刻一刻と変化する被災者のニーズを把握した。

 被災した地域は全国的にも高齢化率が高く、普段服用している薬が途絶えてしまうと命に関わるケースも考えられた。丁寧な聞き取り、疾患の詳しい状況を知る必要があったという。

 発生から約1カ月、現地の薬局が動きだし、情報を引き継ぎながら業務をこなした。活動期間中に取り扱った災害処方薬は計78件に上った。

■感染症対策にも注力

避難所で二酸化炭素の濃度を計測する様子

 派遣チームは薬の供給だけでなく、感染予防対策の「環境調査」という重要な任務にもあたった。

 避難所では、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの集団感染が発生。メンバーは巡回し、二酸化炭素(CO2)濃度を計測した。寒さから窓がなかなか開けられず、数値が基準を上回った場所も少なくなかったという。身を寄せている被災者に声をかけて数値を説明し、こまめな換気を呼びかけた。

 チームの一人、横浜薬科大准教授で薬剤師の鈴木高弘さんは、日頃の備えの重要性をあらためて実感したという。

 「避難所は感染症が流行しやすい環境になりがちで、患者が急増すれば医薬品が一気に不足する可能性もあった。備蓄している医薬品だけでなく、救急箱を今一度確認してもらいたい」と指摘する。特に寒い時期の防災訓練を実施する必要性を感じたという。

避難所で服薬指導にあたる派遣チームのメンバーら(横浜市薬剤師会提供)

 鈴木さんは、切迫する首都直下地震や、広いエリアに被害が及ぶと想定される南海トラフ巨大地震についても言及する。

 「能登半島地震を超える被災者、避難者が出るだろう。当然、医療従事者も被災することになる」とし、「地方から駆け付けるDMATや日本赤十字社の医療救護班も足りない状況は容易に想像でき、より深刻な状況が見込まれる。備えは今以上に必要だ」。そう警鐘を鳴らしている。

能登半島地震の災害支援で活用されたモバイルファーマシーの2号車

モバイルファーマシー マイクロバスやトラックをベースに車内で調剤できる資機材を備えた災害対策医薬品供給車両。「移動薬局車」「動く薬局」とも呼ばれる。
 東日本大震災で多くの薬局が津波で流されたことから導入が進み、全国に計20台ある。神奈川県では横浜薬科大学が2019年に2台を取り入れた。
 今年1月に発生した能登半島地震の災害支援に派遣されたのは2号車。薬を保管する冷蔵庫、電子てんびん、無菌状態で作業できるクリーンベンチといった資機材を積んでいるほか、軽油の発電機やリチウムバッテリーを搭載している。車内に簡易式ベッドや簡易式トイレも備えて長期の運用が可能という。
 横浜薬科大学、横浜市薬剤師会、横浜市の3者が結んだ協定に基づいて運用。平時は授業や防災イベントなどで活用しているが、災害時に派遣するのは今回が初めて。

苦しみ理解 被災地の力に 横浜薬科大学・都築明寿香学長

横浜薬科大学・都築明寿香学長

 このたびの石川県能登半島地方を震源とする地震により、お亡くなりになられた方々に心からお悔やみ申し上げますとともに、被災された皆さまに謹んでお見舞い申し上げます。

 学生ならびに教職員の被災状況の確認と並行し、本学として被害に遭われた方にどのような支援ができるのか検討してきました。今回災害時に初めてモバイルファーマシーを派遣することができましたが、現地の状況確認や実際の運用などを担っていただいた横浜市薬剤師会さまをはじめとする関係機関のご尽力のおかげと感じています。

 モバイルファーマシーは東日本大震災の経験を糧とし、本学が2019年に導入したものです。

 震災発生後、私自身も大学のスクールバスで宮城・気仙沼に向かいました。NPO法人「CARE─WAVE」と連携し、本学と横浜市立市ケ尾中と荏田西小、東市ケ尾小の生徒・児童さまからご寄付いただいた生活支援物資をバス2台に積んで届けたのですが、そこで見たのは薬が届かず、苦しんでおられる高齢の方や持病のある方の姿でした。

 今回出動した石川県能登町では、DMAT(災害派遣医療チーム)の医師が出す「災害処方箋」に従って薬を調剤したほか、避難所での感染症の流行を防ぐため衛生管理に努めたと聞いております。現地の薬局による調剤が困難になる中、必要な方に薬をお渡しできました。少しでもお役に立てたのなら幸いです。

 本学の教育方針の一つに、人の苦しみを理解し心配りのできる「惻隠の心」を育てることとあります。私どもの教員3人も被災地で活動しましたが、災害医療の現場で感じたこと、学んだことを、ぜひ学生たちに伝え、惻隠の心を養ってほしいと思います。

 日本ではいつ災害が起きるか分かりません。本学を巣立った若者たちが即戦力として活躍できるように、カリキュラムなどに落とし込んでいかなければと考えています。また、貴重な経験を踏まえ、教員向けの研修も重ねていきます。

 モバイルファーマシーの活用といった有事の際の社会貢献はもちろん重要ですが、日々の取り組みもまた大切です。本学として地域の方々にもっと医療的な貢献、例えば在宅医療の支援などができればとの思いもあります。

 地域とともに歩み、発展していく。それは本学の務めです。これからも地域課題の解決に向けた取り組みに力を注いでまいります。

薬局としての機能果たす 一般社団法人横浜市薬剤師会・坂本悟会長

一般社団法人横浜市薬剤師会・坂本悟会長

 去る1月1日に起きた石川県能登半島地震により、被災された皆さまに衷心からお見舞い申し上げます。

 当会は石川県能登町で約1カ月間にわたってモバイルファーマシーを運用してきました。第1陣から第7陣までの活動に携わったのは、当会会員に横浜薬科大学教員、県薬剤師会会員、病院薬剤師を加えた延べ28人に上ります。現地での支援は関係機関の皆さまの高い志なくして実現しなかったと感じています。

 町内の9薬局ほぼ全てが機能停止に陥り、私どもは宇出津総合病院前の薬局駐車場にモバイルファーマシーを調剤などの活動拠点として構え、4人体制で臨みました。

 第4陣ごろまでは「災害処方箋」に基づいて処方にあたり、以降は避難所などでの感染症対策に取り組みました。調剤といった薬局としての機能を果たせたことは何より、モバイルファーマシーの存在自体が被災された皆さまに安心感を与えたと聞いています。

能登半島地震の支援に尽力した横浜市薬剤師会の坂本会長(左から3番目)をはじめとする役員

 一方、交通アクセスが限られた地域への災害対応の難しさは痛感しました。朝に通れた道が夜は土砂崩れで使えない。刻々と変化する状況にマニュアルは全く通用しません。

 神奈川でも首都直下地震の切迫性が指摘され、発生すればインフラ被害は避けられないだけに、臨機応変な対応が現場には求められます。当会としても今回の活動の経験を生かし、支援体制や研修の強化に努めていくつもりです。

 能登半島での活動に一区切りはつきましたが、これで終わりではありません。今後も横浜薬科大学さまや、横浜市さまといった関係機関と連携しながら支援に携わっていきます。

 
 

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